kohaku(コハク)とは?Ethereumウォレットのプライバシーを再設計する新しい仕組み
この記事では、Ethereum向けに提案されているプライバシーファーストなウォレット設計「kohaku(コハク)」について、その考え方と全体像を整理して解説します。
kohakuは、新しいブロックチェーンや単一の匿名プロトコルではありません。ウォレットの使い方、アドレスの運用、資産の流れを見直すことで、プライバシーと安全性を両立しようとするツール群です。
本記事では
- 現在のEthereumウォレットが抱えているプライバシー上の課題
- kohakuが提案する「アドレスを使い分ける」という考え方
- Railgunを中心とした、プライバシーを保った資金移動の仕組み
- 金庫・財布・ATMという例えによる全体構造
を順番に解説します。
個別の実装やコードの詳細ではなく、「なぜこの設計が必要なのか」「従来のウォレットと何が違うのか」を理解することを目的とした内容です。kohakuという名前を初めて聞いた人でも、ウォレット設計の変化をイメージできるように構成しています。
是非参考にしてください。
kohaku(コハク)とは?
kohaku(コハク) は、Ethereumにおける「ウォレットのプライバシー」を根本から見直すための、プライバシーファーストなツール群です。単一のプロトコルや新しいチェーンではなく、ウォレットの使い方そのものを再設計する思想と実装の集合体だと言えます。
現在のEthereumウォレットは、多くの場合「1つのアドレスにすべてを集約する」設計になっています。
資産の保管、dApp接続、署名、支払いがすべて同じアドレスで行われるため、
- どのdAppを使っているか
- いつ、何を操作したか
- どれくらいの資産を持っているか
といった行動履歴が、意図せず強く結びついてしまいます。
kohakuは、この前提そのものを疑います。
ウォレットにおけるプライバシーの欠点
現在のEthereumウォレットは、利便性を重視するあまり、プライバシーの観点では多くの欠点を抱えています。
その最大の特徴は、「1つのアドレスにすべてを集約する」という設計です。
資産の保管、dAppへの接続、署名、支払い。これらがすべて同じアドレスで行われるため、ユーザーは意識しないうちに、自分の行動や資産状況を強く結びつけてしまいます。
1つのアドレスが「行動履歴」になる

ウォレットをdAppに接続すると、そのアドレスを起点に以下の情報が簡単に追跡できます。
- どのdAppを利用しているか
- どのタイミングで、どんな操作をしたか
- 過去の取引履歴や残高の推移
これは特別なハッキング行為がなくても、ブロックチェーンの公開情報を見れば誰でも確認できてしまいます。つまり、ウォレットアドレスそのものが「行動ログ」になっている状態です。
dApp接続=全資産への入口になっている

もう一つの大きな問題は、dApp接続時のリスクです。多くのウォレットでは、dAppに接続する際に「どのアドレスを使うか」を選ぶか、そもそも選択肢すらなく、常に同じアドレスが使われます。
その結果、
- dAppが悪意あるものであった場合
- Approveや署名の内容を誤って承認してしまった場合
資産管理用のアドレスそのものが危険にさらされることになります。本来であれば、長期保管している資産と、dApp操作に使うアドレスは、切り離されているべきです。
プライバシーは「隠していない」のではなく「守れていない」
ここで重要なのは、Ethereumウォレットの問題は「匿名性が足りない」ことではありません。
- すべてを隠したいわけではない
- 違法なことをしたいわけでもない
それでも、
- 行動と資産が自動的に結びつく
- 接続しただけで履歴が蓄積される
- リスクの高い操作と安全な保管が混在する
という状態は、健全とは言えない設計です。プライバシーの欠点とは、「見えすぎている」こと以上に、分離できていないことにあります。
この問題は、単一のプロトコルや暗号技術だけでは解決できません。ウォレットの構造、アドレスの運用、資産の流れ。それらを含めた使い方そのものの再設計が必要です。この課題に対して、kohakuは「ウォレットを役割で分ける」というアプローチを提示します。次の章では、その具体的な考え方を見ていきます。
kohakuが提案する新しいウォレットの形

kohakuが提案するウォレットの最大の特徴は、「1つのアドレスですべてを行う」という前提を捨てることにあります。従来のEthereumウォレットでは、資産の保管、dApp接続、署名、支払いが、ほぼすべて同じアドレスで行われてきました。
この設計は分かりやすく、UXの面では優れていますが、プライバシーと安全性の観点では多くの問題を抱えています。
dAppごとにアドレスを使い分けるという発想
kohakuでは、dAppに接続する際、資産管理用のアドレスとは別のアドレスを使うことを前提とします。このアドレスは、いわば「dApp専用の仮の顔」です。
- あるdAppにはこのアドレス
- 別のdAppには別のアドレス
- 資産管理用のアドレスは、原則としてdAppに接続しない
このように役割を分けることで、どのdAppを使っているかとどれだけの資産を持っているかが、自動的に結びつくことを防ぎます。
「選ぶ」のではなく「割り当てる」
重要なのは、kohakuの設計思想では、ユーザーが毎回「どのアドレスで接続するか」を選ぶ必要がない点です。ウォレット自体が、
- このdAppはこのアドレス
- 次に接続するdAppは別のアドレス
というように、内部的にアドレスを割り当てて管理します。これにより、
- 接続のたびに迷う必要がない
- 操作ミスによるリスクが減る
- プライバシー対策が“習慣”ではなく“仕組み”になる
というメリットが生まれます。
dAppが悪意ある場合でも被害を限定できる
dApp専用アドレスを使う最大の利点は、リスクの分離です。仮に、接続したdAppが悪意あるものであったとしても、そのアドレスに大きな資産がなければ、承認や署名に失敗しても被害はそのアドレス内に限定されます。長期保管している資産や、日常的に使わない資産が、dApp接続によって危険にさらされることはありません。
「複数アドレス」は新しい概念ではない
実は、dAppごとにアドレスを分けるという考え方自体は、まったく新しいものではありません。すでに複数ウォレットを使い分けている人、ハードウェアウォレットとホットウォレットを分けている人も、同じ発想を手動で実践しています。kohakuが新しいのは、それをウォレットの設計として自然に組み込もうとしている点です。
しかし、一つ問題が残ります。
- dApp専用アドレスには資産を置かない
- それでもdApp操作にはガス代や資金が必要
では、その資金はどう扱うべきなのか。この問いに答えるのが、次章で解説するRailgunです。
プライバシーを保ったまま資金を動かす仕組み

dAppごとにアドレスを使い分ける設計は、ウォレットのプライバシーと安全性を大きく向上させます。しかし、ここで一つの現実的な問題が残ります。
dApp専用アドレスには、基本的に資産を置かない。それでも、dAppを操作するにはガス代や一時的な資金が必要です。この矛盾を解決するために用意されているのが、Railgunを中心としたプライバシープールの仕組みです。
直接送金しないという前提
通常のウォレット運用では、資金を移動する際はアドレスからアドレスへ直接送金します。しかし、この方法では、どのアドレスからどのアドレスへいくら移動したかが明確に記録され、アドレス同士の関係性がはっきりと可視化されてしまいます。kohakuの設計では、この「直接つなぐ」という行為そのものを避けます。
共有プールを経由するという考え方
Railgunは、多くのユーザーが共通で利用するプライバシープールです。このプールでは、誰がいくら持っているか、どの入金とどの出金が対応しているかといった個人単位の情報は外から見えません。
見えるのは、プール全体にどれくらいの資産があるか、誰かが入金・出金したという事実だけです。これにより、資金の流れは記録されていても、「誰の行動か」を特定できない状態が生まれます。
ガス代を「肩代わりできる」理由
Railgunを利用すると、dApp専用アドレス自身がETHを持っていなくても、トランザクションを実行できます。これは、Relayer(中継者)がトランザクションを送信し、そのガス代や手数料を、プール内の残高から差し引く仕組みになっているためです。
重要なのは、
- プールが個人の残高を把握しているわけではない
- 利用者が「十分な残高を持っている」ことだけを証明する
という点です。
誰がいくら持っているかは分からなくても、条件を満たしているかどうかは検証できる。これが、プライバシーと実用性を両立できる理由です。
Railgunは「保管場所」ではない
ここで強調しておきたいのは、Railgunは資産を長期保管するための場所ではないという点です。Railgunはあくまで、金庫(資産管理アドレス)と財布(dApp専用アドレス)をつなぐ中継点です。資産を一時的に預け、プライバシーを保ったまま動かし、必要に応じて引き出す。
この役割分担を意識することで、リスクを限定しながら現実的な運用が可能になります。分離された設計が全体を支えるdApp専用アドレス、資産管理アドレス、そしてRailgun。これらは単体で機能するものではなく、組み合わせることで初めて意味を持つ設計です。次の章では、この全体像を金庫・財布・ATM という例えを使って、改めて整理していきます。
金庫・財布・ATMで考える、kohakuのウォレット設計

ここまで見てきたkohakuの設計は、一見すると少し複雑に感じるかもしれません。しかし、その考え方はとてもシンプルです。ウォレットを1つにまとめない。役割ごとに分けて考える。
これを現実世界に当てはめると、kohakuのウォレット設計は金庫・財布・ATMという関係で理解できます。
金庫:資産管理用アドレス(EOA)
金庫は、最も大切な資産を保管する場所です。
- 長期保有の資産を置く
- 原則としてdAppに接続しない
- 日常的な操作は行わない
このアドレスは、「使うため」ではなく「守るため」に存在します。kohakuでは、資産管理用アドレスをdAppから切り離すことで、接続=リスクにならない設計を実現しています。
財布:dApp接続専用アドレス
財布は、日常的な支払いに使う場所です。
- dAppごと、または用途ごとに使い分ける
- 中身は必要最小限
- 操作や署名のための“作業用アドレス”
仮に、このアドレスが危険にさらされたとしても、被害は限定的です。資産管理用アドレスを直接dAppに接続しない。この一点だけでも、ウォレットの安全性は大きく変わります。
ATM:プライバシーを保ったまま資金を動かす仕組み
ATMは、金庫と財布をつなぐ中継点です。kohakuでは、Railgunを中心としたプライバシープールがこの役割を担います。
- 直接アドレス同士をつなげない
- 資金の出入りをプール経由にする
- ガス代や一時的な資金を肩代わりできる
重要なのは、ATMは「住む場所」ではないという点です。Railgunは、資産を長期保管するための金庫ではなく、安全に通過するための仕組みです。
分けることで、全体が安全になる
従来のウォレット設計では、
- 金庫と財布が同一
- ATMを介さず直接やり取りする
という状態が当たり前でした。
kohakuはこれを分離することで、
- プライバシーの向上
- dAppリスクの限定
- 資産管理と操作の切り離し
を同時に実現しようとしています。
まとめ
kohakuが提案しているのは、魔法のようにすべてを隠すウォレットではありません。むしろ、「混ざっていたものを、正しく分け直す」という、非常に現実的なアプローチです。
資産を守るための金庫。
dAppとやり取りするための財布。
そして、その間をプライバシーを保ったまま行き来するためのATM。
これらを役割ごとに分離することで、
- 行動履歴と資産を自動的に結びつけない
- dApp接続によるリスクを限定する
- プライバシー対策を“意識”ではなく“構造”にする
という設計が可能になります。
従来のウォレットは、便利さの代わりに多くを一箇所に集めすぎていました。kohakuは、その当たり前を問い直し、「安全に使い続けられるウォレットとは何か」を再定義しようとしています。
Ethereumの透明性を否定するのではなく、その上でどう使うかを考える。kohakuは、これからのウォレット設計を考えるうえで、一つの重要なヒントを与えてくれる存在と言えるでしょう。

