USDT0とは?通常のUSDTとの違い・仕組み・リスクを徹底解説【2026年最新】

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2025年1月に、Tetherから新しいステーブルコイン「USDT0」がローンチしました。これまでのUSDTと違い、複数のブロックチェーンをまたいで自由に移動できる「オムニチェーン対応」のステーブルコインです。

ローンチから10ヶ月で累計送金額500億ドルを突破し、LayerZeroエコシステム内で最も活発なクロスチェーン資産になっています。この記事では、USDT0の仕組みやメリット、Tetherの戦略、そしてリスクまで徹底的に解説します。

USDT0とは?基本を解説

USDT0の基本情報

USDT0は、Tether・LayerZero Labs・Everdawn Labsの三者協業で2025年1月16日にローンチされた、オムニチェーン対応版のUSDTです。

最大の特徴は、15以上のブロックチェーン間で「ラップトークン」や「サードパーティ製ブリッジ」を使わずに、本物のUSDTと同じ価値を持つ資産として自由に移動できる点にあります。従来のクロスチェーン送金で問題になっていた手数料、スリッページ、セキュリティリスクの多くを解決しています。

通常のUSDTとの違い

USDT0と通常のUSDTは、名前は似ていても中身はかなり異なります。

表1:通常のUSDTとUSDT0の違い

項目 通常のUSDT USDT0
発行者 Tether Limited Everdawn Labs(Tether関連)
ローンチ 2014年 2025年1月16日
チェーン間の扱い チェーンごとに別トークン 全チェーンで統一された単一アセット
クロスチェーン送金 サードパーティブリッジ必要 ネイティブ対応(ブリッジ不要)
スリッページ ブリッジで発生 ゼロ
対応チェーン ネイティブ約12チェーン+ブリッジ版多数 15以上(今後拡大)
1USDの担保 Tetherの現金・国債などの準備金 Ethereum上にロックされた1 USDT
技術基盤 各チェーン独自の実装 LayerZero OFT規格

USDT0を支えるOFTの仕組み

OFT(Omnichain Fungible Token)とは

USDT0を語るうえで欠かせないのが、OFT(Omnichain Fungible Token)というLayerZeroが策定した規格です。これは「複数のブロックチェーンを横断して、同一トークンとして振る舞える」ように設計されたトークン標準になります。

OFTの実装パターン

OFTには大きく2つの実装方式があります。

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Burn-and-Mint型(純粋OFT)

新規トークンが最初からオムニチェーン前提で作られる場合の方式です。全チェーンのOFTコントラクトがそれぞれミント権限を持ち、発行者が各チェーンに配分を決めて直接ミントします。「本店」と「支店」の区別がなく、全チェーンが対等に扱われるのが特徴です。

Adapter型(Lock-and-Mint方式)

既存トークンに後からオムニチェーン機能を追加する方式です。元のトークンがあるチェーンに「Adapter金庫」を用意し、そこにオリジナルトークンをロックすることで、他チェーンにOFT版をミントします。ホームチェーンに戻るときだけAdapterがアンロックする動きになります。

USDT0はAdapter型

USDT0はAdapter型を採用しています。

EthereumのUSDTコントラクト(0xdac17f958d2ee523a2206206994597C13D831ec7)は2017年にデプロイされた古い契約で、LayerZero用のmint/burn権限を後から追加することができません。そこでTetherは、Ethereum上にOFT Adapter(OAdapterUpgradeable Contract、アドレス:0x6C96dE32CEa08842dcc4058c14d3aaAD7Fa41dee)を新規デプロイし、このAdapter経由でクロスチェーン展開を実現しています。

USDT0の送金フローと動作の流れ

具体的なフロー

USDT0の送金がどう処理されるのか、具体的なフローを見てみましょう。ユーザーがEthereumからArbitrumにUSDTを送るケースで説明します。

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この一連の流れで、Ethereum側では1,000 USDTが動かなくなり、Arbitrum側では新しく1,000 USDT0が生まれます。全体としての供給量は変わっていないのがポイントです。

支店間の移動はAdapterに触れない

ArbitrumからBerachainに送る場合などは、Ethereumの本店Adapterは一切関与しません。支店間で直接burn-and-mintが行われます。

Arbitrum上で1,000 USDT0がバーン(焼却)され、LayerZeroのメッセージがBerachainに届き、そこで1,000 USDT0がミントされる。このあいだ、EthereumのAdapterにロックされた1,000 USDTはずっとそのままです。どの支店にいても、同じ「預かり証」を使い回しているイメージになります。

常に成立する等式

USDT0の設計は、常に以下の等式が成立します。

Ethereum Adapter金庫のUSDT残高 = 全チェーンのUSDT0総供給量

この等式はEthereumのオンチェーンで常に検証可能になっています。Etherscanでadapter残高を見れば、その瞬間の全USDT0供給量の裏付けが確認できる点が、USDT0の信頼性の根拠となります。

USDT0の発行について

Tetherは新しくUSDTを発行していない

USDT0の特徴的な設計のひとつは、TetherがUSDT0のために新しくUSDTを発行していない点です。USDT0は既存のUSDTをそのまま使う仕組みになっています。

2025年1月のUSDT0ローンチ時点で、Ethereum上にはすでに1400億ドル以上のUSDTが流通していました。Tetherはそれをそのまま担保資産として利用し、新しいAdapterインフラだけを用意したという構造です。

供給量はユーザー需要で決まる

USDT0にはいわゆる「初期発行イベント」が存在しません。ユーザーがUSDTを預けるたびに少しずつUSDT0の供給量が増えていく、需要駆動型の発行モデルになっています。

表2:USDT0の供給量はユーザーの行動に連動する

タイミング ユーザーの行動 状態
T0 まだ誰も預けていない Adapter: 0 USDT / 全USDT0: 0枚
T1 ユーザーAが1,000 USDT預ける Adapter: 1,000 USDT / 全USDT0: 1,000枚
T2 ユーザーBが2,000 USDT預ける Adapter: 3,000 USDT / 全USDT0: 3,000枚
T3 ユーザーCが500 USDT0を引き出し Adapter: 2,500 USDT / 全USDT0: 2,500枚

この設計がもたらすメリット

  • Tetherのバランスシートが膨らまない(既存USDTを動かしているだけ)
  • 需要駆動のため「売れ残り」が構造的に発生しない
  • 新規チェーンへの対応コストがほぼゼロになる
  • 担保の裏付けがオンチェーンで常時検証可能
  • 供給量の上限がAdapter金庫のロック残高で物理的に制約される

USDT0を使う5つのメリット

メリット1:ゼロスリッページのクロスチェーン送金

従来のブリッジでは、たとえばEthereumからAvalancheに10,000 USDTを送ると、手数料やスリッページで数十ドル〜数百ドルが失われることがありました。USDT0では、LayerZeroのOFT規格によって「ロック額=ミント額」が保証されるため、スリッページゼロで同額が届きます。

メリット2:ラップトークン不要のDeFi統合

LendingプロトコルやDEXで、USDT0は単一のトークンとして扱えます。wETH、wBTC、wUSDT…と各チェーンごとに別扱いされていた煩雑さが解消され、開発者・ユーザー双方の体験が大きく改善されます。

メリット3:新興チェーンでの即座な流動性獲得

新しいL1/L2が立ち上がる際、従来ならステーブルコインの流動性確保が最初の課題でした。USDT0に対応すれば、LayerZero経由で既存のUSDT流動性を即座に取り込むことができます。実際、2025年9月ローンチのPlasmaチェーンは、ローンチ直後にUSDT0を60億ドル以上吸収しました。

メリット4:透明性の高い1:1バッキング

Ethereum上のAdapter金庫がオンチェーンで可視化されているため、USDT0の裏付けがリアルタイムで検証できます。従来のステーブルコインで常に議論になる「本当に1USDの裏付けがあるのか」という疑念が、オンチェーンレベルで解消されるのが大きな強みです。

USDT0が対応しているブロックチェーン

対応チェーン一覧

2026年4月時点で、USDT0は以下のチェーンに展開されています。

表3:USDT0の対応チェーン(2026年4月時点)

カテゴリ チェーン
EVMメイン Ethereum, Arbitrum, Optimism, Polygon, Unichain, Berachain
L2/新興 Ink, Sei, Mantle, Hyperliquid(HyperCore/HyperEVM)
Bitcoin系 Corn, Rootstock
非EVM Solana
ステーブル特化 Plasma

成長の実績

  • 2025年1月:Kraken系L2のInkでローンチ
  • 2025年3月:供給量15.7億ドル到達
  • 2025年7月:供給量42億ドル到達
  • 2025年9月:Plasmaチェーン稼働でAdapter金庫が28億→77億ドルに急増
  • 2025年11月:累計送金額500億ドル突破
  • LayerZeroエコシステム内で最もアクティブなOFTトークンに成長

TetherがUSDT0を作った狙い

USDT系アセットは現在3層構造

USDT0は「USDTを置き換える」ものではありません。Tetherの戦略は、用途別にUSDT系アセットを棲み分けさせる3層構造になっています。

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第1層のネイティブUSDTは、大口取引や新興国決済といった既存の強力なユースケースを担い続けます。第2層のLegacy Meshは、既存USDTチェーン同士をクレジット方式で接続する仕組みです。そして第3層のUSDT0が、新興チェーンへの展開を担うという構図になっています。

「全置換」ではなく「棲み分け」

車輪を再発明するつもりはない。ただTetherを毎日1%ずつ良くしようとしているだけだ。
― USDT0共同創業者 Lorenzo Romagnoli

USDT0はUSDTの進化系ではありますが、既存USDTの置き換えは狙っていません。既存強豪チェーンはそのままで、新興チェーンへの拡張をUSDT0が担うという棲み分けが明確になっています。

戦略的意図:防衛と拡張の二面作戦

  • 既存の強いチェーン(Ethereum)はそのまま維持
  • 新興チェーンへの拡張コストをゼロ化(LayerZero対応だけで完結)
  • 競合USDCのCCTP(Cross-Chain Transfer Protocol)への対抗策
  • 実質的な「新チェーン標準」をUSDT0に誘導
  • Tether本体のバランスシートとコンプラリスクをEverdawn Labsに分離

USDT0のリスクと注意点

リスク1:LayerZero・DVNへの依存

USDT0のクロスチェーン機能は、LayerZeroのメッセージング基盤に完全依存しています。LayerZero自体が停止・侵害された場合、USDT0のクロスチェーン送金は停止してしまいます。

また、メッセージの正当性を検証するDVN(Decentralized Verifier Network)の設定が安全性を大きく左右します。USDT0は「LayerZero DVN + USDT0 DVN」の2/2構成(両方の承認が必須)を採用しており、業界で推奨される「3つ以上の独立DVNによる多数決」と比べると最低ラインの構成と言えます。

リスク2:Adapter型の構造的な特性

USDT0がAdapter型を採用していることで、特有のリスクがあります。ただし、「Adapter型=危険、Burn-and-Mint型=安全」という単純な話ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを抱えているのがポイントです。

表4:Adapter型とBurn-and-Mint型のリスク特性比較

観点 Adapter型(USDT0) Burn-and-Mint型
攻撃の焦点 Adapter金庫1箇所 全チェーンのミント権限
最悪シナリオ 金庫の中身が全額流出→全チェーン裏付けゼロ ミント権限奪取で供給量が無限に増える
供給量の上限 ロック残高で物理制約 技術的には無制限
担保の可視性 オンチェーンで常時確認可能 発行者の鍵管理を信じるしかない
攻撃インセンティブ 金庫に集まる額に比例(高い) チェーンごとに分散(相対的に低い)

Adapter型は「攻撃対象が集約されている」ため狙われやすい一方、Burn-and-Mint型は「無限ミントの可能性」という別の脅威があります。どちらが良い悪いではなく、トレードオフの関係にあると理解するのが正確です。

リスク3:実際に起きた事件から学ぶ

2026年4月18日、同じLayerZero OFTを使うKelp DAOのrsETHブリッジが2億9200万ドル規模のハッキング被害を受けました。これはUSDT0と同じAdapter型で、DVN設定が1/1(単一検証者)だった点が攻撃成功の要因とされています。

攻撃者はDVNの秘密鍵を盗むのではなく、DVNが参照するRPCノードインフラを侵害・DDoS攻撃する手法で偽メッセージを通しました。結果としてEthereum上のAdapterから本物のrsETHが流出し、20以上のチェーンのrsETHが裏付けを失う事態になっています。

USDT0はDVNが2/2構成のため、この攻撃と同じ手法では成立しない設計です。しかし、この事件は「OFT Adapter型は本店金庫さえ破られれば全チェーンが崩壊する」という構造的脆弱性を現実のものとして示しました。LayerZeroは事件後、1/1 DVN構成のプロジェクトへの署名停止を発表し、業界全体のセキュリティ底上げが進んでいます。

リスク4:発行体の二層構造

USDT0はTether本体ではなく、Everdawn Labsが発行・運営しています。この構造は、Tether本体のコンプライアンスリスクを分離するメリットがある一方、以下の点に注意が必要です。

  • USDT0の法的位置づけが通常のUSDTと異なる
  • USDT0→USDTへの変換には専用ツールが必要
  • Everdawn Labsの運営体制・財務状況は完全には公開されていない

まとめ:USDT0の今後の展望

USDT0は、これまでのステーブルコインが抱えていた「チェーン間の分断」という構造問題に、LayerZero OFTという新しい技術で答えを出しました。ユーザー駆動の発行モデル、オンチェーンで検証可能な1:1バッキング、新興チェーンへのゼロコスト展開など、設計としては非常に洗練されています。

Tetherにとっては、バランスシートを膨らませずにエコシステムを拡張できる理想的なインフラであり、競合との差別化要因にもなっています。

今後の展開

  • 短期:新興チェーンでの標準化がさらに進む(USDT0前提のL1/L2増加)
  • 中期:DVN設定の業界標準化、2/2→3/N以上への底上げ
  • 長期:オムニチェーンステーブルコイン市場での競合(USDC CCTP、USDG0等)との覇権争い

USDT0は、従来のクロスチェーン送金が抱えていたスリッページ、高い手数料、ブリッジハックといった問題を、LayerZero OFTという技術で根本的に解決したステーブルコインです。Ethereum上に本物のUSDTがロックされているため、担保の裏付けがオンチェーンでリアルタイムに検証できるという、従来のステーブルコインにはなかった透明性も備えています。

DVN構成が適切に複数設定されている限り、USDT0は新興チェーンでのDeFi運用において非常に強力なツールです。特にArbitrum、Berachain、Plasmaといった新興L1/L2で機会を探るユーザーにとっては、ラップトークンやサードパーティブリッジを経由せずに本物のUSDT価値を持ち込める点で、これまでにない選択肢になります。

注意すべきはUSDT0とネイティブUSDTの違いです。見た目は同じ「USDT」でも、信用の根拠が異なります。用途に応じて使い分けることで、USDT0の利便性を最大限に活かせます。

新興チェーンの時代に入った今、USDT0のようなオムニチェーン型ステーブルコインの重要性は今後さらに増していきます。複数チェーンをまたいで資金を動かすDeFi運用において、USDT0の仕組みを理解しておくことは大きなアドバンテージになるはずです。